フランソワ=グザヴィエ・ロトによる“全世紀”プログラム

(2020/10/11)*1

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
フランソワ=グザヴィエ・ロト

カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ
交響曲ニ長調 Wq 183-1

パウル・ヒンデミット
ヴィオラ協奏曲《白鳥を焼く男》
タベア・ツィンマーマン(ヴィオラ)

ベラ・バルトーク
弦楽のためのディヴェルティメント

 

今回のデジタルコンサートホール配信も、やっぱり凝った内容のプログラムだ。
バロックと古典の間の時期に活躍したC・P・E・バッハのシンフォニアを皮切りに、近現代を代表する作曲家のヒンデミットからバルトークとつづく。
現代オーケストラで演奏される曲目としては相当広い時期から組まれた内容となった。

 

指揮者のフランソワ=グザヴィエ・ロトは2015年にベルリンフィルデビューをした指揮者。親はオルガン奏者で、本物の“ロトの血を引く者”だ。当たり前か。
「レ・シエクル」(仏語で“全世紀”の意)というオリジナル楽器オーケストラでの活動が有名なようだ。

 

tower.jp

ちなみに、グザヴィエ・ロトの演奏はデジタルコンサートホールでは過去4回のアーカイブを視聴することができる。その全てがなんならもっと“全世紀”なプログラムだ。
古楽からヴァレーズの打楽器アンサンブルのような現代音楽まで一晩で演奏している日もある。今回のようなプログラムはまさに得意とする内容だろう。

協奏曲でヴィオラソロを弾くタベア・ツィンマーマンは、2020/21シーズンのアーティスト・イン・レジデンスを務める音楽家。
21歳の時に当時のドイツにおいて最年少で大学教授に就任したという凄い経歴の持ち主だが、同時に初めからヴィオラ奏者という珍しいソリストでもある。
自身もヴィオラ奏者であったヒンデミットの作品は重要なレパートリーだと語っていて、演奏が楽しみだ。


今回の曲はどれも初めて聴く(たぶん)作品で楽しみである。特にC・P・E・バッハの作品には触れる機会があまりなかった。
この時期の音楽は、古典でピリオドアプローチが流行った時にアーノンクールとかインマゼール指揮の録音を聴いたり、毎朝ラジオで「バロックの森」(今は「古楽の楽しみ」ですね)がかかるようにして聴きこんでいたことがある。
引っ越してラジオの電波が入らなくなって、ネットラジオに切り替えてから設定できなくなって、たまにしか聴かなくなってしまった。

 

www4.nhk.or.jp

この番組はかなり深い。古楽の豊かな世界を垣間見させてくれる。いわゆる「沼」とかって次元ではなく、独立したひとつの図書館くらいの豊富さを持っている。


例えば10月1日の放送内容はこれだ。

 

▽18世紀フランスの鍵盤音楽(4)

 

こんな特集タイトル、天下のNHKでなければ考えられないでしょ…。ラジオ設定しなおそうかな。とにかくC・P・E・バッハの作品、どんな響きがするのか楽しみだ。

 

対してヒンデミットとバルトークは、打楽器が趣味なので割と親しみがある。他の作品なら演奏する機会もたまにあるくらいだ。
《白鳥を焼く男》はオーケストラからヴァイオリンとヴィオラを省いた編成らしい。今シーズンの流れからすると、もはや驚きはしない。

貴重なヴィオラ協奏曲、どんな感じだろう。

 


 

演奏がはじまって、まず驚かされたのが低弦を除く全員が「立奏」ということ。
高弦とチェロの間にはチェンバロ、ステージの前半分しか使わない編成で、見た目上の躍動感は相当なものがあった。


C・P・E・バッハの曲は颯爽とした感じで、チェンバロが曲のブリッジになるところとかでバロックの名残を感じさせる部分もあるが、モーツァルトのような生命力のある印象だ。
軽く飛び跳ねるようなロトの指揮も、そんな印象に一役買っているのかもしれない。
交響曲という題名から想像するにはとても短く、15分くらいでこの曲は終わった。

鮮やかな始まりだ。けっこう楽しい。

 

いったん全員退場して、チェンバロをどかしたりハープを動かしたりのセッティング変更。その間、ハープを試し弾きしたりティンパニのヴィーラントだけ先に入ったりしてて、ちょっと自由な空気に親しみが持てる。

 

ヒンデミットの《白鳥を焼く男》は、挨拶もそこそこにすぐ始まった。
この曲は座って演奏するようだったが、高弦を省いた編成のためか普段の高弦の位置に木管楽器が配置されている。コンサートマスターに当たる位置にはフルートが来ている状態。なかなか奇抜な配置だ。

だが配置というより、ソリストを務めるツィンマーマンのパワフルさに目を奪われる。
まるで「ヴィオラという楽器の美質を隅から隅まで知っている」という感じの演奏。陳腐だが、専業というのはこういうことなのか、と思わされる。

曲はヒンデミットらしく斬新な響き。ハーモニーに重要な役割を持たせていて、複雑だが聴きやすい。ほとんどの楽器にソロがあり、楽しい曲だった。
第3楽章が表題の民謡を基にした曲で、ものすごい速さで演奏されるPrestの楽章だ。
もちろんツィンマーマンの超絶技巧が炸裂する。

民謡、、だとすると少し複雑すぎるんじゃないかな?どんな民族?
技巧的な要素とノリの良さがマッチした感じで、バッチリ決まって終曲。

ブラヴォーがすごい。なんか叫んでる人もいた。


もちろん演奏されたアンコールは、J・S・バッハによる「ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ第2番 BWV 1028」。ハープの伴奏を加えての演奏だ。素晴らしい内容。

この中間プログラムはアンコールも含め元気いっぱいであった。


後半のバルトークは高弦も入って、普通(まだプルトの裏はいない)の配置。

前半の2曲に比べて、しっとりして重心の低い音楽だ。強烈なリズムが繰り返され、暗澹として胸が圧迫されるような、激しい印象の曲。前半とは対照的で目覚ましい効果があった。

終楽章はリズムの繰り返しが楽しい曲想で始まるが、だんだん緊迫の度合いが高まり、途中から超速くなる。緊迫感の表現として素晴らしいし、こんなに速く動く合奏体を見たことは私にはなかった。弦楽はアンサンブルとして優れた形態だと改めて感じる。

曲は緊迫の最高潮を迎えたところで謎めいたコーダに入って、最後は断定的に終結した。

 

全体的に大満足の演奏会だった。

パンデミックという事情がありオーケストラの編成は縮小傾向だが、今回のプログラムはほぼ適正な編成で行われている。

さらに、その編成で実現可能な最善のカタチをフランソワ=グザヴィエ・ロトが身に着けている。そういったことがこの満足感と無縁ではないだろうと思う。

舞台袖に引っ込む時には必ず黒いマスクをするマエストロ。大胆な音楽の割に律儀な一面を見せる。素敵な音楽家だと思った。

 

<2020/10/17追記>

アーカイブ入り!

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*1:デジタル・コンサートホールには一部有料のコンテンツが含まれます。視聴方法については公式HPをご確認ください。http://www.digitalconcerthall.com