このプログラム、本当に演奏するのかな?って思ってた。
バレンボイムによる《わが祖国》。大きなプログラムだ。
(2020/10/25)*1
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ダニエル・バレンボイム
ベドルジハ・スメタナ
交響詩《わが祖国》
バレンボイムがスメタナの代表作、連作交響詩《わが祖国》(全曲)を指揮します。デジタル・コンサートホールでは、当日中継のほか、25日(日)日本時間20時から時間差で再配信します。ぜひご視聴ください。https://t.co/hJWckuf83u
— ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (@BerlinPhilJapan) 2020年10月24日
指揮者、ダニエル・バレンボイム。現代のクラシック音楽界における最大級の音楽家だ。
私も普通にCDかけたらバレンボイム、ピアノだったり指揮だったり、というくらいの超大物。
本も読んだ。
内容には是非があると思うが、社会と音楽を結び付けて語ることのできる時代が確かにあった。そんな時代の巨匠だ。
現代社会の訳の分からなさについてどう感じているのか、少しだけ興味がある。
この本どうやって読んだんだっけ?大学の図書館かな?
加えて作品は《わが祖国》。チェコ音楽のある意味で究極的な作品だ。
デジタルコンサートホールのコメントでも言ってる通り、どうしても期待してしまう。
この《わが祖国》、私も幸いにして演奏に参加したことがある。ティンパニを演奏した。なんと贅沢なことか。
スコアは各曲1冊で、6冊必要だった。なにせ巨大な作品だ。
「わが祖国」は計6曲からなる連作交響詩で、そのテーマは「国家」、神話、自然、信仰という「天・地・人」の3要素をブチ込んで存分に表現した大作。
第1曲の冒頭のハープが吟遊詩人を表現していて、その音にはスメタナの頭文字BとS(=B♭-E♭)が使われている。スメタナさんがわが国の栄光を語りますよ、ということだ。この音型は最後にも登場して、物語の締めくくりをする。とても美しい構成。
どうしてもロマンシングサガ2をイメージしてしまうが明らかにこっちが元ネタだ。
演奏会は、入場から大きな拍手で始まった。
弦楽器は少なめだが、プルトの表裏がある!やはりこの曲は縮小した編成だと厳しいか。
コンサートマスターには樫本大進。その裏にはバルグリーと、重要な演奏会であることを感じさせる布陣だ。
第1曲「高い城」から情感たっぷり。バレンボイムは大きな身振りで、スケール感のある音楽だ。
なんかこの、豊かな感じ、久しぶりだな。
続くようにはじまる第2曲「ヴルタヴァ」は、いわゆるモルダウ。
小さい流れが合流して大河を形成する。
そんな全てのパッセージを活かしたド真ん中の音楽だ。
これだよ…ベルリンフィルといったらこれです…。
最強集団のガチスタンダード最高だな…音楽はやはり美しい…。
第3曲「シャールカ」。この辺からはあまり有名ではない。
この曲は全曲の中で特殊なキャラクターを持っていて、神話の通り、混乱を孕んでいる。
弦楽器が音楽を強く牽引していたような印象。疎かな要素が無い。
終結へ向かうソロ、クラリネットのオッテンザマー氏がいつにも増して凄まじい。
すごい推進力で突進し演奏しきった。
第4曲「ボヘミアの森と草原から」、どんだけ繁ってんだよ、っていうくらい鬱蒼とした森の表現でスタート。
続く木管の場面はきっと草原なんだと思うが、こちらも背の高い草原のイメージだ。
咽るような緑が想起されて、感覚が刺激される。ボヘミアの風は強いんだろうか。
美しいハーモニーと細かい変化が楽しい。のどかな感じの場面もあり、親しみやすい。
ここから「わが祖国」サーガは完結へ向かう。
少し間隔を空けて、第5曲「ターボル」。要塞の名を冠した曲だ。不穏に始まる。
ティンパニはベンジャミン・フォースター。
「わが祖国」はみんなそうだが、ティンパニも休みなく演奏し続けている。
ここまでもスゴイな、音全部はまってるしトレモロ速いし、って感じだけど、ここで一発ソロ。なんと全部片手でいきおった…しかもバッチリキメてる…超人かよ?
コラールが繰り返され、展開していく。
豪壮なテーマと、落ち着くパッセージが交互に出てきて、敬虔な気持ちにさせられる。
そして闘いの場面。今日のベルリンフィルはめちゃくちゃ強そうだ。
もの凄いバトルが行われ、人々は信仰というか信念をより堅いものにしていく。
第6曲「ブラニーク」。
開始からは、先ほどの闘いの経過が密やかに語られる。
ひとつひとつの要素を丁寧に展開し、徐々に、確実に盛り上がっていく音楽。
やわらかい音の管楽器による中間部を挟み、決然と終結へ向かう。
ここでも、まるで伝え漏らすことを恐れるかのように、丁寧に音を並べ、語られていく。
音楽が熟するとコラールと行進曲風の展開へ。これも、じっくり広がっていく。
そして、第5曲から続くテーマ、そして、冒頭の詩人のテーマが再登場。
詩人のテーマがまとまって、コーダに入り、明るい未来を示すかのように終結する。
この曲…やっぱりテンション上がるな…
長いっちゃ長いけど全く飽きないし…創意工夫の宝庫なんですよね。
それでいてテーマも大きいっていう。
チェコの「わが祖国」だけど、私にとっても大事な作品のひとつ。演奏され続けてほしい。
今シーズンではある意味はじめての大作、バレンボイムが豊かに盛り上げてくれた。
欧州は今大変なことになっているが、こんな音楽が続けられていくといいな、と思わされる演奏会であった。
<2020/11/01追記>
アーカイブ入り!
*1:デジタル・コンサートホールには一部有料のコンテンツが含まれます。視聴方法については公式HPをご確認ください。http://www.digitalconcerthall.com