首席指揮者ペトレンコの登場、そしてフィルハーモニー閉鎖

デジタルコンサートホールの配信では9月以来となる、ペトレンコ登場。
10月の間も濃ゆ~い指揮者たちがそれぞれの個性を発揮して楽しかったが、やはりこの首席指揮者が出てくるとワクワクするものがある。
録音も映像もあんまり無いからね。

 (2020/11/01)*1
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
キリル・ペトレンコ

アンドリュー・ノーマン
《サビーナ》(弦楽合奏のための編曲版)

リヒャルト・シュトラウス
23の独奏弦楽器のための《メタモルフォーゼン》

ディミトリ・ショスタコーヴィチ
交響曲第9番変ホ長調

 

前回の「わが祖国」の大オーケストラから、今回は弦楽を交えた曲目。
弦楽合奏にはじまり《メタモルフォーゼン》は23重奏。これも弦楽合奏といえるだろう。そしてショスタコーヴィチの9番と続く。
9番は、異端の作品である14番は別として、ショスタコーヴィチの交響曲の中では小規模な作品だ。

 

《サビーナ》の作曲者、アンドリュー・ノーマンは現代の作曲家。
40代になったばかりで、この世界ではかなり若手に属する世代だが、既にベルリンフィルとの共同作業は複数回を数える。

なんだか楽しげな作品もアーカイブにあった。これは無料で見られる。

www.digitalconcerthall.com

 

 

R・シュトラウスとショスタコーヴィチの作品は、共に第2次世界大戦末期に書かれている。
敗北したドイツと、勝利したソビエト連邦。
どちらに属する作曲家も、どこか虚無的な音楽を遺したことは興味深い。

 

演奏会。プルトには表裏があり、前回から通常の編成に戻ったと言ってもいいだろう。
《サビーナ》では少なめの弦楽器が用いられた。

不思議な曲だ。
動機というよりトレモロを使った「線」が重なってハーモニーを形成する。
旋律はほぼ聴き取れないが、色彩と輝きが変化していくイメージだ。
それでいて現代の曲としては親しみやすさがある。

これは、かなり新しい音楽の形なのかもしれない。

 

ペトレンコの指揮はというと、いつものように完全体だ。
曲に対する理解の深さを感じさせる動き。音楽への没入感。
相変わらずの音楽超人ぶりで安心感がある。

 

《メタモルフォーゼン》。当然ながら23名で演奏される。
こちらは旋律的な動きが主になっている曲。
悲壮感の支配する雰囲気で、晦渋な響きの音楽だ。
徐々に盛り上がっていくのだが、なんだか複雑な高まり方をする。
最後、息絶えるように終曲へ。
この部分はベートーヴェンの「英雄」の葬送行進曲を引用しているそうだ。

 

セッティング変更には少し時間を要し、ショスタコーヴィチの配置へ。
久しぶりに通常の編成となり、オーケストラが入場すると拍手とブラヴォーが巻き起こった。みんな嬉しそうである。

 

ショスタコーヴィチの9番は軽妙に書かれていることで有名だ。
演奏も健全な感じで進んでいく。
ただ、音の圧が凄まじい。プルトの表裏が無い状態でもまったく不足を感じなかったが、やはりフル編成になると迫力がある。
こういう変化が起こるのか…ということが理解できた気がする。

この作曲家らしく超絶技巧というか、とにかく速い動きがたくさん出てくるのだが、人数が戻ったことでの影響も特に無かった。
管楽器は全員ソリストとしてもやっていける人たちだし、そりゃスゴイに決まっている。

ティンパニストはヴィーラント・ヴェルツェルだ。髪を切ってサッパリした。
なんだか演奏に貫禄が出てきた気がする。
前はド派手な印象だったのが、より丁寧になった感じだ。
一流の人でもちょっとずつ変わっていくんだなあ…。学ぶことが多い。

曲は少し翳りをみせた後、軽妙にまとめられた。
当然ブラヴォー。この曲、音楽自体には悲壮感は少ないものの、存在が虚無的だ。
変わった曲だと思う。


今回は曲の終了後に11月2日~30日のフィルハーモニー閉鎖の字幕が流れ、その後に追加の演目が配された。
ジョン・ケージの「4分33秒」。これは、はっきりと閉鎖への抗議だと受け取っていいと考える。
演奏(?)はというと、きっちり3楽章が演奏され、ペトレンコは指揮をしていた。
なるほど、休符だけど指揮は動いていいのか…と変なところで感心してしまった。
無音の間は強烈な違和感。演奏がされないとはこういうことだ、という気持ちが強烈に意識される。

作品への理解がある、深い演奏だったと思う。

 

という訳で、ベルリンフィルハーモニーでの演奏はしばらくお休み。
予定通りの復活が望まれるところだ。

 

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<2020/11/07追記>

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