ショスタコーヴィチ:交響曲第8番の無観客演奏会

11月2日から閉鎖しているベルリンフィルハーモニーホール。
この演奏は、デジタル・コンサートホールでの配信のために企画され、無観客で行われたもの。
豊富な映像資源を持つベルリンフィルにしては珍しい取り組みだ。

 (2020/11/14)*1
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
キリル・ペトレンコ

ディミトリ・ショスタコーヴィチ
交響曲第8番ハ短調

 

前回のDSCH-9番に続き、今回は8番。
私はこの曲に、とにかく暗い音楽という印象を持っている。

全5楽章で構成され、演奏時間約60分のうち、半分の30分は第1楽章に費やされる。
冒頭でひと通り提示があり、新たなものが加わったり変化していく、というようなイメージだ。

 

ロックダウンの影響で今シーズンのプログラムは大きく変わった。

その中で急遽入ってきたこの曲が、どのように演奏されるのかとても興味深い。

 


 

コンサート前のインタビューは、第一コンサートマスターのバルグリーが聞き手。
ショスタコーヴィチの第8交響曲を演奏することは歓びだ、この作品は非常に複雑な要素を併せ持っている…というような内容だった、と思う。


勝利のイメージがある作品である5番、7番、まあ10番を例に出して、この8番の特性に迫っていく。
バルグリーの問いは率直で、ペトレンコは言葉を尽くして応える。
これは…めちゃくちゃレベルの高い音楽的対話なんではないか…語学しっかり勉強しとけばよかったな、と思う。

 

演奏は、入場とか無くて、いきなり始まった。
初っ端からゴリゴリ密なショスタコーヴィチのサウンド。ペトレンコもオーケストラも完全なる集中。

これはヤバい演奏だ。直感でそう思った。

 

第一楽章。
長いが、ソロも多い。皆「完璧」だ。コールアングレの音が太い。
それでいて、この後があることは予感させる。この複雑な作品に対する理解を感じる。

珍しく、打楽器の撮影アングルは撥が映る角度だ。
ティンパニのヴィーラント、かなり特殊なハンマー型のマレットを選択。
たまに見せる苦い表情をしている。高い集中を感じる。

スネアは見たことない楽器だが、スティックを3種類使っていた。
ショスタコーヴィチのスネア。確かにそのくらい拘る必要があるのかもしれない。小太鼓はショスタコーヴィチの作品では色んな意味で重要な役割を果たす。

完全なる集中、あっという間にこの楽章は終わった。


長めの間隔を取って、第二楽章。
なんなら平易な印象のスケルツォだ。
コントラファゴットとピッコロ、みたいな珍しいアンサンブルもある。
巨大なスケルツォ。ペトレンコは何故か笑顔。オーケストラがフル稼働する。


第三楽章。またしても間隔は長めだ。
謎に動き回る弦楽器。無機質に急を告げる木管。その信号が高まっていく。
トランペットのソロが複雑、そこから曲が展開する。
スネア、超かっこいいな?なんだこれ?
不思議動機が繰り返されて、ティンパニが曲を牽引する。
すげえ…これは…完全に決まったんじゃないか?

木管のソロなどがあって、どんどん曲は落ち着いていく。いつの間にか次の楽章へ。

 

第四楽章。ここでアダージョだ。
全五楽章の構造が複雑なだけに、ブリッジとなるこの部分は難しい楽章になっている。
状況が落ち着いて、終結へつながっていく時間と見るべきだろう。

 

第五楽章、ここもアタッカで始まるが、雰囲気は徐々に変わる。
木管のソロなどがあって安らいでいくが、それは確定的ではない。
少し不気味さを加えたまま、だんだん力強くなっていく。

安心感を挟みつつ、打楽器による破壊が戻ってくる。これ、相当すごい名演だと思うんだけど、どうかな?ヴィーラントのティンパニやばくない?

 

そして「なんとも言えない」安定の世界へ。戦争の後、特に勝利は無い。

何も起きないという表現を選ぶショスタコーヴィチは、やはり鬼才なんだと思う。だんだん穏やかになり、勝利も敗北もないまま音楽は終わる。

ペトレンコも、あっさり終始。すぐに暗転して配信も終わった。

 

さすがペトレンコというか 、特殊な状況で演奏された音楽であっても、作品の解釈に余計なものを挿むことはしない。むしろ純音楽的に演奏することで、強烈にこの作品の持つメッセージが浮き立ってくるような印象を持った。

また、「特殊な状況」によってメッセージが受け取りやすいというのも、理解の上で取り組んでいるのだと思う。平時のプログラムにしては少し重たい曲だ。

作品が活きる形で演奏された、好演であったと思う。どのような状況にあっても音楽を追求する姿には拍手を送りたい。

 

<2020/11/24追記>

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